2024.02.20
犬の股関節形成不全について|歩くときに腰を左右に振る様子が見られる
通常の股関節は、骨盤の寛骨臼と大腿骨先端の大腿骨頭がピッタリとはまることで、スムーズな後肢の動きが可能となっています。
しかし犬の股関節形成不全は、発育不全などが原因で寛骨臼と大腿骨頭がうまく適合せず、股関節内に炎症が発生します。股関節構造の異常の程度によって症状は異なりますが、足を引きずって歩く、歩くときに腰を左右に振る(通称:モンローウォーク)などが見られます。
この記事では犬の股関節形成不全の原因や症状、治療法などについて詳しく解説します。
■目次
1.原因
2.症状
3.診断方法
4.治療方法
5.予防法やご家庭での注意点
6.まとめ
原因
股関節形成不全の原因として遺伝の関与が明らかになっていますが、成長期の栄養や運動不足などの二次的な因子も発症に関与しています。好発犬種は、主にゴールデン・レトリーバーなどの大型犬に高率に発生する病気ですが、まれに小型犬や猫でも発症することがあります。
症状
股関節形成不全の特徴的な症状は後肢のふらつきで、両方の後ろ足で同時に地面を蹴るようなウサギ跳び様歩行が見られます。
通常、生後1歳以下の若齢犬で発症することが多く、ほとんどの場合は両方の股関節に異常が現れます。
その他の症状としては、以下のような症状があります。
・歩行時に腰が左右に揺れる(モンローウォーク)
・散歩に行きたがらない
・散歩の途中で座り込んでしまう
・頭を下向きにして歩く
・座るときに横座りになる
股関節の炎症が軽度の場合、飼い主様が症状に気がつかないこともありますが、症状が進行し炎症が重度になると歩行のたびに強い痛みが生じ、足どりが不自由になり、歩行困難となります。
診断方法
飼い主様からのご自宅での様子などを問診した後に、後ろ足の筋肉や骨格に触って現在の股関節の状態を確認します(整形学的検査)。
そして院内で自由に歩き回っていただき、歩行の確認も行った上で、股関節形成不全が疑われる場合は、股関節のレントゲン検査を行い、股関節の状態や炎症の有無などを確認します。
これらの検査結果を総合的に判断し、股関節形成不全の診断を行います。
治療方法
股関節形成不全の治療には、内科的治療と外科的治療があり、症状の重症度や犬種、年齢などを考慮して治療を選択します。
内科治療では、リブレラという変形性関節症に用いられる鎮痛薬を処方し、鍼灸を用いて痛みを軽減します。
リブレラの製造方法、効能、効果、性能などのエビデンスは公式HPをご覧ください
内科治療では、股関節形成不全の原因である関節構造の異常を治すことはできないため、あくまでも対症療法であり根本的な治療ではないことに留意が必要です。
外科治療では、主に大腿骨頭切除術を行います。大腿骨頭切除術は、異常な構造を有する大腿骨頭を切除する手術です。
大腿骨頭を切除すると歩けなくなるのではと心配される飼い主様がいらっしゃいますが、大腿骨頭を切除することで骨がぶつからなくなるため関節炎が改善され、術後は線維性偽関節が作られるため、数週間程度で歩けるようになります。
その他の手術法として人工股関節置換術や三点骨盤骨切術がありますが、合併症が多いため当院では積極的には実施しておりません。
内科治療・外科治療のどちらを選択したとしても、体重制限や運動制限、滑りやすい場所に滑り止めマットや絨毯を敷くなどの環境整備を含めた保存療法も同時に行います。
予防法とご家庭での注意点
股関節形成不全は遺伝的な要因が大きく関与していますが、成長期にバランスの取れたフードをしっかり食べて適度な運動を行うことである程度、股関節の形成を促せます。
また肥満は股関節だけではなく、膝関節などの歩行に重要な関節に大きな負担となるため、体重管理を徹底してください。
ご家庭では、床や階段に滑り止めマットや絨毯を設置することも症状の悪化を予防するのに有効です。
まとめ
股関節形成不全は放置すると深刻な関節炎を引き起こし、治療後も正常な歩行を取り戻すのが困難になります。
日頃から愛犬の様子をしっかりと観察し、動物病院で定期的な健康診断を受けることで、早期発見・早期治療が可能となります。
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