2021.02.19アニマルケアステーション
ACS letter 2021.2 ㉚犬アトピー性皮膚炎の局所療法
ACSレター2月号を担当させていただく獣医師の福田です。
コロナもなかなか落ち着かずで、感染しないように、気を使う毎日ですね。
パンデミックの影響で、獣医界でもいろいろな変化がありました。特に、獣医師向けのセミナーがWebセミナーとして行われるようになり、今まで東京や海外に行かなければ受けられなかったセミナーが、家のパソコンで受講できるようになりました。
直接質問できなかったり、臨場感を味わえなかったりと残念な点もありますが、気軽に勉強ができる点はとてもありがたいです。
今回私は、Webセミナーで、世界獣医皮膚科学会に参加させてもらったので、その中で印象的だった犬アトピー性皮膚炎の局所療法についてお話させてもらおうと思います。
犬のアトピー性皮膚炎とは、遺伝的素因を持った炎症性、掻痒性のアレルギー疾患のことです。
環境アレルゲンへのIgE抗体の増加が起きてしまい、体が過剰反応し、かゆみを引き起こしてします。
この疾患で、特に痒みが出やすい部位は以下のところです。
このような部位に痒みが出てしまった場合、症状や経過、皮膚検査、また血液検査で何に対してアレルギー反応をおこしているのかを調べたりしながら診断や治療を行っていきます。
しかしアトピー性皮膚炎の病態は複雑なので、治療は一筋縄では行きません。
なぜならば、炎症やかゆみを起こす因子はたくさんあり複雑に絡み合っているからです。
今回のセミナーで示されたアトピー性皮膚炎の犬の皮膚の炎症や痒みの原因となる病原性因子とその相互関係の模式図を紹介します。
この図からもよみとれるように一度痒みが起こってしまうと皮膚のバリアの破綻→炎症→感染と悪循環に入ってしまい更に治療を難しくしてしまいます。このため治療は一つの側面だけではなく大きく全体をみていろいろな角度から、アプローチしていかなければいけません。
アトピー性皮膚炎の治療には特に、次の5つのアプローチが重要となります。
1.アレルゲンを避ける
2.免疫療法
3.スキンバリアのコントロール
4.感染のコントロール
5.かゆみのコントロール
このなかで、3.4.5へのコントロールを局所療法が、助けてくれます。
この3つを詳しく見ていきます。
3.スキンバリアのコントロール
保湿し、スキンバリアの強化を行い、かゆみの改善を図ります。
方法としては 経口療法、局所療法が挙げられます。
経口療法 オメガオイル投与を行い、角質の脂質量を増やす。
局所療法 セラミド(皮膚の50%を占める脂質)の塗布などが挙げられます。
症状によって、投与、塗布の回数を調整し、皮膚状態の維持につとめることができます。
4.感染のコントロール
細菌やマラセチアの治療の局所療法です。
主に消毒薬を感染のコントロールに用いることが多く、シャンプーを行ったり、毛をしっかり刈り、皮膚に直接薬を塗ることで、バイオフィルムを破壊し抗菌効力をあげることができます。
利点としては、薬の容量を下げたり、耐性菌や内服での副作用を抑えることができます。
シャンプー療法は週に1回から2回行い、5から10分程度浸透させながら、こすらず優しく洗うことが重要になってきます。
5.かゆみのコントロール
全身のかゆみ止めの補助として局所にステロイドを用いてコントロールします。副作用も内服よりも抑えることができます。
症状によって使い方は異なりますが、毎日つづけ症状が落ち着いたら、症状の出る前から予防的に治療するプロアクティブ療法で、週に二回程度外用を続け、長期的に投与し改善があれば回数をさらに減らし、かゆみの再発を抑えていきます。
アトピー性皮膚炎はずっと付き合っていかないといけない慢性疾患で、完治することはないので、その子その子にあった治療で、長期的に維持していかなければいけません。
殆どの子は、全身療法が必要ですが、局所療法を取り入れることで、投薬量を減らせたり、痒みが少しでも減る助けとなります。
皮膚のかゆみはなんとか抑えてあげたい症状です。今回のセミナーで得た知識を活かし、局所療法も取り入れながら、飼い主さんの生活パターンや、犬たちの性格や症状に合わせて、それぞれにあった治療法を提案できるようにしていきたいと思っています。
シャンプーが、お家では難しい子は、当院のトリミング施設で薬用シャンプーを行うことができますのでお気軽に相談してくださいね。
また、ステロイド剤についても当院ではいろいろな強さのステロイド剤を
用意しているので気軽に相談してくださいね。
痒みのない生活めざして、一緒に治療していきましょう!