2019.04.18
ACS letter 2019.4 ⑩犬の慢性腎臓病について
初めまして、獣医師の下村と申します。
ワンちゃん、猫ちゃんの多飲、多尿は日々の診療でよく遭遇する臨床症状の一つで、多くの病気(代表的なものとして、慢性腎臓病、糖尿病、副腎皮質機能亢進症など)が隠れている場合があります。
最近、おしっこの量や水を飲む量は増えていませんか?その他にも
① 体重減少
② 食欲不振
③ 元気消失
④ 脱水
⑤ 嘔吐
⑥ 口臭などの症状はありませんか?
これらの症状がいくつかあれば、もしかすると腎臓病かも知れません。
犬の腎臓病には急性腎臓病と慢性腎臓病がありますが、
今回はワンちゃんの慢性腎臓病についてお話しさせて頂きたいと思います。
犬の慢性腎臓病とは…
慢性腎臓病は進行が緩徐で経過が長期間に及ぶ病気です。
肝臓などと違い、再生しない臓器のため不可逆的な病変が特徴です。
早期の慢性腎臓病は無症状のこともあります。
腎臓の仕組み
腎臓の働き
体内の老廃物や余分な水分を体外に出して血液をきれいにすることが最も重要な働きです
① 老廃物の排泄
② 体内の環境を一定に保つ(電解質と水分量の調節)
③ 血圧の調節
④ 赤血球がつくられるときに必要な造血ホルモン(エリスロポエチン)の分泌
⑤ その他
徴候
最もよく見なられる症状は多飲多尿です。他には脱水、食欲低下、元気消失、被毛光沢減少、嘔吐、口腔内潰瘍、口臭、貧血、高血圧などがみられ、尿毒症がひどくなると痙攣発作が起こることもあります。
検査
① 血液検査(特にBUN,CRE、電解質、リン、貧血の有無など)
② 血圧測定
③ 尿検査(尿比重、蛋白、pH等):特に犬の場合は蛋白漏出性腎臓病が多い為、UPCという検査が重要です。 *UPCとは尿タンパク/クレアチニン比;尿比重に左右されず腎臓からの蛋白の漏れを見ることができる検査です。
④ 超音波検査、レントゲン(腎臓の大きさ、形などを見ます)
治療
初期には殆ど症状を示さず、気付かないうちに進行する為、早期発見、早期治療が重要なポイントとなります。残された腎機能を保護し、病気の進行を遅らせることが治療の目的になってきます。
① 処方食:蛋白やリンの制限(リン吸着剤を使用する場合もあります)
② 皮下点滴:必要に応じて回数や量を決めます。症状が重度のときは静脈点滴を行います
③ 腎臓への負担少なくする血圧やタンパク尿を改善する薬の投与
進行に伴って嘔吐や貧血など様々な症状が出てくることがあり、それぞれの症状に合わせて治療を行っていきます。
嘔吐がある場合は吐き気止めを投与、貧血のある場合は抗貧血剤や鉄剤の投与など行います。
近年では新しい腎機能マーカーであるSDMAという検査で、腎臓病を早期に発見できるようになりました。クレアチニンは筋肉量に左右されますが、SDMAはされません。
尿比重、UPC、クレアチニン等と合わせて確認します。
早期発見のために
慢性腎臓病は初期段階ではほとんど症状のないのが特徴です。
日頃から飲水量、尿量、おしっこの臭い、色に変化はないか、気を付けてあげてください。
健康に見えても半年に一度程度の身体検査や血液検査、尿検査を受けるようにしましょう。