2018.12.04
ACS letter 2018.12 ⑥避妊手術はするべき?
こんにちは、獣医師の有馬です。
今回は「避妊手術」についてです。
我が家のリンク(M.シュナウザー 女の子)は7か月齢になりました。先月、最初の発情期を迎え、そろそろ避妊手術を考える時期になりました。早いものですね。この前、子犬を迎えたと思っていたのに、体は順調に大人のワンちゃんに変わっています。
なぜ、この時期に避妊手術を考える必要があるのでしょうか?
避妊手術は必要なの??
この質問は良く聞かれます。
全身麻酔が怖いからしたくない。自然のままがいい。可哀そうだからしたくない。
などなど避妊手術しない人の多くの意見です。
まず、避妊手術ってなんでしょうか?
メスの犬ちゃんは、生後6~12か月で成犬となり、妊娠できるようになります。その後は、定期的に発情期が年に1~2回やってきます。避妊手術は、子宮と卵巣を摘出することで、妊娠できないようにするための手術です。
ここで考えなくてはいけないのは、避妊手術をする時期が病気予防につながるということです。
1. 乳腺腫瘍の発生率を抑える
乳腺腫瘍は、メス犬の約50%に発生すると言われています。2匹に1匹は乳腺腫瘍になる確率があるということです。乳腺腫瘍には良性と悪性があり、発症すると50%は悪性と言われています。つまり、乳がんです。
ところが、最初の発情が来る前に避妊手術を行うことで、97%の高い確率で乳腺腫瘍の発症を抑えることができます。2回目の発情前でも 92~94%の確率で予防できます。
しかし、3回目の発情以降の避妊手術は、避妊手術をしない犬ちゃんとほとんど発症率は変わらなくなるという結果が報告されています。子犬の成長と体力面を考えると1歳を迎える頃に避妊手術をすることを私は勧めています。つまり、2回目の発情が来る前までに手術を受けることが重要です。
2. 子宮蓄膿症
陰部から細菌が入り、子宮に膿が溜る病気です。メス犬は発情期を迎えるとオス犬を受け入れやすい体になり、陰部が広がります。また、陰部からの出血を自分で舐めるため、細菌が子宮に入りやすくなります。細菌感染から化膿し、子宮の膿はパンパンに膨らみ、毒素が全身に回りショック状態で死に至ることもある恐ろしい病気です。 避妊手術で、子宮を摘出しますので、子宮蓄膿症が起こることはありません。
3. 発情中のストレスを減らすことができる。
発情期は年に1~2回あり、平均10日間くらい続きます。発情期間中のメス犬は「落ち着かない」「食欲がない」「不安そう」「オス犬が寄って来る」など普段と違う様子を見せます。ストレスを感じやすい時期で、神経質になるワンちゃんもいます。避妊手術によって、こういった発情中のストレスを減らすことができます。
4. 生理トラブルに悩まない
ワンちゃんは、発情期には出血が見られます。平均10日間くらいですが、長い場合は1か月くらい続く場合もあります。人間のように大量に出血することはなく、少量垂れる程度ですが、床や家具など汚してしまいます。我が家のリンクの場合、オムツを履かせることなく、垂れる血を拭きながら生活していたのでが、抱っこした時など洋服が血で汚れてしまうためオムツを履かせることにしました。最初はおとなしくしていたので、大丈夫だと思っていたのですが、朝方、自分でオムツを外し、中の吸収パッドを食べていました。すぐに病院に連れていき、吐かせることができたので良かったのですが、腸で閉塞すれば開腹手術になるところでした。危ないところでした。避妊手術をすれば、生理は来ないので生理対策を考える必要がなくなります
。
では、避妊手術を受けることでのリスクはなんでしょうか?
1. 全身麻酔のリスク
避妊手術は全身麻酔のもとで行われます。術前に、血液検査などを行い、健康であることを大前提として行う手術ではありますが、全身麻酔のリスクはゼロではありません。
では、実際に報告させている麻酔関連死亡率(健康な状態での手術)は
麻酔関連死亡率 犬・猫:0.05% (2000頭に1頭の確率)
人:0.01~0.05%
人よりも死亡率が高いのは、個体が小さい、短頭種(ブルドック、パグなど)など形態の違いがあることが考えられます。
2. 尿失禁
避妊手術との関連性は証明されていませんが、避妊手術をした大型犬のメス犬に尿失禁が起こる可能性があります。
愛犬に避妊手術を受けさせるかどうかは、非常に繊細な問題です。飼い主さんが正しい知識を持って、愛犬の幸せを考え判断していただければ、それが正しい判断だと私は思います。