2021.04.22
ACS letter 2021.4 ㉜緊急性のある状況
初めまして、辻本と申します。
昨年、日本国外で獣医師免許を取得し帰国、現在ACS外科クリニックにて研修中です。まだまだ至らない点が多々ありますが、大切なご家族と真摯に向き合わせて頂きたいと考えています。これからどうぞ宜しくお願いいたします。
さて、今回のACSレター4月号は「緊急性のある状況」についてです。
とは言っても、その症状は様々なので今回は早期診断と早期治療が必要となる代表的な病気をいくつかご紹介します。
*椎間板ヘルニア*
椎間板ヘルニアでは背骨と背骨の間にある椎間板が出てしまい脊髄を圧迫、それによる神経麻痺、痛み、炎症が起こっている状態です。軽度の場合は内科的治療と安静を保つ事で改善しますが、重度の場合には手術が必要となる場合もあります。いずれにせよ発症してからいかに早い段階で治療を開始できるかが重要となってきます。そのためにも椎間板ヘルニアの場合の症状、
- 腰の辺りを痛がる
- ふらつきが見られ
- 後ろ脚の麻痺 排尿障害
- シフシェリントン徴候(前足が伸びきる)など
が見られる時はできるだけ早く病院に行くことで回復できる確率が高まります。椎間板ヘルニアを発症しやすい犬種はダックスフンド、ウェルシュコーギー、ビーグル、キャバリアなどです。
*急性緑内障*
緑内障は眼圧の上昇によって視覚障害・消失を引き起こします。眼圧が高くて網膜が正常に機能できない状態であり、原発性、続発性、先天性に区別されます。何らかの原因で急激に眼圧が上昇し高眼圧が24−72時間持続した状態だと、通常は視力が戻らないと言われています。原発性なのか、続発性なのかによって治療法も異なってきますので速やかな診断と治療を開始する事が重要になってきます。治療が遅れると視覚障害、失明に繋がる恐れがあるので、
- 急に目が見えなくなったり
- 痛みによって涙の量が増え
- 前脚で頭をかく仕草や
- 第三眼瞼突出
- 充血
- 瞳孔が開いた状態
- 角膜全体が青みがかったように見える(角膜浮腫)
が見られるといった症状が急激に見られる場合には早めに動物病院へ行くことをお勧めします。
*尿路閉塞*
尿路閉塞の原因として最も多いのは尿結石によるものです。尿結石により膀胱炎や血尿が引き起こされ、ひどい場合に尿路を閉鎖しておしっこが出なくなってしまいます。膀胱炎の症状が出ている時は排尿時の痛み、血尿、排尿姿勢をとるが尿はあまり出ていないといった症状が見られ、完全な尿路閉塞の場合は尿が出なくなり、突発的な急性腎障害に陥ります。それにより毒素が体外で排出されず尿毒症につながる可能性があります。尿毒症に陥った場合は食欲不振、下痢、嘔吐、脱水、腹部の痛み、進行すると虚脱、痙攣、血液循環の低下などの症状が見られます。また、高カリウム血症に陥ると徐脈、不整脈となり危険な状態となりますのでこれらの症状が見られる場合は早急に対処する必要があります。 尿路閉塞は猫ちゃんに多く、ワンちゃんの場合はミニチュア・シュナウザー、シー・ズー、チワワ、トイ・プードル、ポメラニアンなどが尿路結石を起こしやすい犬種とされています。尿結石は食事 のコントロール(腎臓用のフード)、早期検査、飲水量に気を配る事で予防する事ができます。猫ちゃんや好発犬種と生活されている場合は普段の生活から気を付けてあげてください。
*子宮内蓄膿症 (パイオメトラ)*
この病気は子宮内に膿が溜まっている状態で早期診断・早期治療を必要とするものです。
一般的な症状として、
- 多飲・多尿
- 元気消失
- 嘔吐・食欲不振
- 腹部圧痛
- 外陰部から膿が出ている、しかし膿が出ない時もあります
体内で細菌による炎症反応が続き全身性炎症反応症候群(SIRS)を発症している場合これに対する処置の遅れは急速な状態の悪化を招きます。手術で卵巣子宮を摘出する外科的治療はその後の回復も良く元気になる確率が高いですが、全身性炎症症候群と診断された場合は死亡率が上昇します。さらに、子宮内に膿が溜まっている状態が続き、腹部内で破裂してしまった場合には敗血症性腹膜炎となり、死亡率は著しく上昇します。この病気は8−10歳の未避妊雌に多く認められる病気ですが、避妊手術をする事で防げる病気なので将来的に繁殖を考えていない場合は一度避妊手術もご検討ください。
*胃捻転 胃拡張捻転症候群(GDV)*
これは何らかの原因で胃が膨らんで結果として胃が捻れてしまう状態で発症すると致死率が高い病気です。膨らんだ胃の影響で血管が圧迫され血液循環が悪くなり、この状態が続くと重篤な血流障害となり脾臓や胃の細胞が壊死してしまいます。基本的には全ての症例が緊急事態であり捻れを整復して胃を固定する手術が必要となります。好発犬種としては基本的には大型の胸が深いわんちゃんで食後すぐの運動により捻れが起こるとも言われていますが、ダックスなどの症例も十分ありえます。
主な症状として
- 食後徐々にお腹が膨らんできてる
- 何回もえずくが何も吐けない
- お腹が膨らんでぐったりしている
などが見られる時は早急に病院へ行き適切な処置を受ける必要があります。予防として一度に多くの食事を与えるよりも少量を数回に分けてあげるなどで発症リスクを抑える事ができます。